[湘南日記] カラス問題が落ち着いたと思ったら、トイレで洪水が発生

さて正月早々から大トラブルとなったカラス来襲事件だけれども、どうやら一件落着してくれそうな気配がしている。まだ油断してはいけないけれども、当マンションを狙って飛来するカラスはいなくなった。

今週は念のために全て在宅勤務することにしたけれども、資料作成や会議の合間にベランダへ出ても安心感がある。
嬉しいことだ。
そして仕事の気分転換とカラスへの音による威嚇を兼ねて、ベランダではエアーソフトガンでシューティングゲームをやっている。”ぼっち” でやっている的当てゲームに過ぎないけれども、これはこれで奥が深くて面白い。
しばらくは楽しく過ごすことが出来そうだ。

それにしても人類というのは、どうしてシューティングゲームが好きなのだろうか。
少なくとも現在でもSF小説というジャンルは存在しており、表紙は御覧の通りである。
(676巻というのはスゴイ。なお出版元の早川書房はノーベル賞作品も出版している)

そういえば英国あたりでは、本当の銃で動物を狩ることもあるらしい。鹿狩りだっけ?

そういえば子供の夏休みの課題図書はThe Magic Fingerだった。
あれはネタを少しバラしてしまうと、鳥をハンティングする一家に対して怒った少女が、”魔法の指 (The Magic Finger)” で一家を鳥にしてしまうというストーリーだった。
(作者はジョニー・ディップも映画出演した “チャーリーとチョコレート工場” の原作者)

もちろん僕はカラスたちにエアーソフトガンを向けることはないので、誰かにカラスにされてしまうことはないだろう。
そういえば当マンションを一時占拠したカラスたちといえば、最近新しく建設された14F建てのマンションの方へ引っ越したらしい。
当マンションのように建物だけとは異なって、庭園などの自然環境が大変に充実している。
それに14階建てだと屋上にいれば、さすがに人間に邪魔されるリスクも減るだろう。夜ならばともかく、果たしてレーザーポインタ型の懐中電灯が昼間も通用するかは試してみないと分からない。
なんだか申し訳ない気が、しないでもない。

しかし背に腹は代えられない。
今日も親子で当マンションの物件見学していた方々もいたけれども、カラス・マンションに引っ越して来たいとは思わないだろう。
街全体としては本質的にはゴミ捨てマナーの向上などによって食料補給を減らし、小集団化させることが望ましい。しかし現時点では、そこまでやるのは難しい。
新築マンションの方でも大きな被害が生じていないことを祈るだけだ。

ちなみに我が家のお嬢様は、僕よりも遥かにドライである。
「へーき、へーき。父ちゃんが余計な心配をしなくても大丈夫。あとは向こうの問題よ。私たちが気にする必要なんてないわよ!」との仰せである。
こういう意見が言えるようになるとは、さすがは厨二… 中学二年生。成長したものだ。
そう言われると、僕としては返す言葉がない。
ともかくしばらくは様子を伺い、一件落着したら職場へ出社して仕事をバリバリと……

そういった安心感でで呑気に構えていたら、突如として新たな災厄が降りかかって来た。
個人用の携帯電話に、介護付きマンションのスタッフから電話がかかって来た。
(ちなみに僕は未だに、電話はガラケー… じゃなくたガラホを利用している。月額料金が安いからという理由で。家計はいつもピンチなのよ)

その電話の用件はというと、お袋さんの部屋のトイレから水が溢れ出たとのことだった。
「あの、トイレのある洗面室が水浸しになり、絨毯を廃棄するのが良いかと思い、お電話を差し上げたんですけど……」
「もちろん廃棄に全く異論ありませんが、どうしてわざわざ僕に?」
「いえ、お母様が『汚れの少ない半分だけを切り取って、残りを使えないか考えてみたい』とおっしゃるのです。とりあえず私たちでビニール袋に入れ、お部屋に保管できるようにしておくことは可能ですけれども…」
「いやいや、面倒な作業ですね。申し訳ないです。全部捨てて頂けると嬉しいです。僕から母親を説得しましょう」
「すいません、よろしくお願い致します」

ありがたいことにオンライン会議の予定はなかったので、さっそくお袋さんへLINEビデオ通話を接続した。
「もしもし、そちらで事件が起きたと聞いたんだけど」
「そうなのよ、トイレの水が溢れちゃったのよ」
「それで洗面所に敷いている絨毯を半分に切りたいと思っているんだって?」
「あら、どうしてそんなことを知っているの?」
我が母親、さすがに80歳を過ぎてから認識力が落ち始めている。僕としては小さくため息をついて、もの言いたげな母親の話をさえぎって、一気にまくしたてた。
「もちろんそちらのスタッフさんからです。私はお袋さんの保証人となっていますから……. いいですか、お袋さん! あなたはトイレから水が溢れ出るような事態を引き起こした! そして自分では解決できなくて、スタッフに水の除去や清掃をやって頂いている。ビデオ通話のサブカメラで洗面所方向を確認すると、数名でやって下さっていることが分かる。その状況で絨毯を半分に切って欲しいというけれども、それは一体だれがやると思っているんです? 私がそちらへ赴いて切るということ? 自分で切る?」
「そんなこと出来る訳ないじゃない。もちろんスタッフの方に切って頂くのよ」
「ただでさえ忙しい状況で、動けるスタッフを総動員させておいて、さらに絨毯を半分に切る作業をやってくれと依頼するんですか? 使い続けることが出来るかも微妙なのに」
「だって、私は体が不自由だから」
「スタッフは何でも屋じゃありません。あくまで何かあった時にフロント対応してくれる相談窓口が仕事です。お袋さんが自分で出来なくて困った場合には、僕に相談するのが筋というものです。今回は特別対応して下さっているのです」
「だってあなたに来て貰うのは申し訳ないし…」
「だからといって、近くにいて下さるからといって、契約範囲外の仕事をお願いするのは不適切というものです」
父ちゃん、厳しいのは子供に対してだけではない。
「そもそもトイレの排水口を詰まらせると事態を引き起こしたのが宜しくない」
「私だって頑張ったのよ。手を突っ込んで、出来るだけトイレットペーパーを細かくちぎったの」
「いや、ペーパーをちぎってから流すという行為が正しくない。そういう時はゴミ袋に入れて、生ごみとして処理すべきなんです」
彼女、もともと家庭内の実務は親父任せだった上に、認識力も低下しつつある。しかし、だからといって、なんでもやって構わないという訳ではない。

結局は絨毯を新たに買うことを僕が手伝うということにして、その場は落ち着いた。
ヤレヤレだぜ、と言いたいところである。

(会議の予定は入っていないけど在宅勤務だから、仕事していない時は “休憩時間” という扱いになるのだ。もちろん資料作成スケジュールも遅延する。家にいても “勤務中” なのだけれども、どういう訳かお袋さんも家人も理解が追い付かない)

で、その日の仕事が終わってから、少し考えてみた。
こんなことが何度も起こってはたまらない。そしてトラブルがあった時には、原因と対策を明らかにするのが、メーカー社員としては基本スタンス(嗜み)となる。
そして事故が生じた時は、「いつもと違った事象や行為を探せ」というのは、保守サポート部門の鉄則とも言える。
ん、原因?

たしかに我がお袋さん、トイレットペーパーを大量に使用する傾向がある。先日も介護付きマンションを訪問した際、流れ切っていないトイレットペーパーがあった。
しかしどうして今日になって、トイレの水を溢れさせるようなことになったのだろうか?
80歳を過ぎた老人が、僕のようにモリモリと食事をして、モリモリと… とは考えにくい。

そういえば最近、古新聞の回収で配布されるトイレットペーパーを譲られることが無くなっていたな。
ちょうど先週の日曜日に介護付きマンションを訪問し、古新聞を二袋も回収業者へ出す作業をした。先々月と先月の古新聞は一袋だったけれども、その時もトイレットペーパーを一つずつ貰っているハズだ。
こういっては回収業者に申し訳ないけれども、もともと品質のイマイチなトイレットペーパーだ。厚手で水に溶けにくい。
使った僕が言うのだから、間違いない。なぜなら僕のお尻は… (以下、表現自粛)

あ、もしかして、自分でそのトイレットペーパーを使うことにしたのか?
そして大量に使う習慣があるから、とうとう耐えかねてトイレの排水口が詰まってしまったという可能性はありそうだ。

それにしても仮説とはいえ、わずかな手掛かりからそこまで気づくとは、父ちゃんって天才なんじゃないか?
やったぜ!
そう思った僕は、家人に意気揚々と自分の推理を披露した。

しかし説明の途中から気づいたけれども、家人が妙な表情をしている。
で、最後まで説明した僕を待っていたのは、衝撃の一言だった。
「実は私も、トイレットペーパーに問題があったんじゃないかと思っていたのよ」

えっ?
久しぶりの名推理のつもりだったけれども、誰でも気づくような “至極当たり前のこと” だったりするの?

自分だけが名探偵の推理力で辿り着いたと思った仮説が、実は大したことなかったと思い知らされた場面を想像できるだろうか。
そういう非情にして無情な事態に直面すると、大変に惨めな思いをすることになる。
カラス事件は片付いたかもしれないが、僕って全然大したヤツじゃないのか…

そうして僕は、大いに落ち込んだ。
最近の家計に負担をかける出費まで思い出されてくる。
「それでも自分としては、自分がやれることをやるしかないのだ」と吹っ切るのに、実に一時間も要したのだった。
ナナミンは「人間は小さな絶望を積み重ねて大人になるのです」というセリフがあったけれども、今回もちょっと大きな絶望のダブルパンチだった。

それにしてもお袋さん、良質でないトイレットペーパーでないことに気付いて、自分で使うことにしたのかなあ。
そうだとしたら、気づくのが遅れて本当に申し訳ない次第だ。

で、せめて少しでも僕の哀しみを分かって頂けると幸いだと思って、この話をパソコンに向かってみたという次第である。
そしてさらに、自分の筆力の無さに、三度目の絶望を味わうことになったのだった。

(いや、「期首テストは玉砕だったよー」という話を聞いたので、ダメージは3つでなくて4つか。とほほほほ)

こういう時は、まずは寝て英気を養うのが良いのかもしれない。

そういう訳で、今回はこの辺で。ではまた。おやすみなさいー

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記事作成:小野谷静